休憩なし、12時間労働は当たり前!保育士の残業問題
多くの保育士が「もう辞めたい」と思い悩む理由の1つに、残業の問題があります。保育園によってはノー残業を掲げているところもありすが、そういう園はだいたい持ち帰り仕事が大量に発生している、というのが実情です。
ここでは、多くの保育士が悩んでいる残業問題の実情と原因、そして解決策についてお話しましょう。
- 保育士の残業問題の実情〜17時からが仕事の本番!が当たり前〜
- 過剰な残業によって起こる実害
- 保育士の残業問題はなぜなくならない?
- どうしたら保育士の残業問題は解決するか
- 残業問題に限界を感じたら、無理はしない
保育士の残業問題の実情〜17時からが仕事の本番!が当たり前〜
◆毎日のサービス残業
保育士の平均残業時間は4時間前後。定時が17時半だとすると、そこからプラス4時間なので21時過ぎまで園に居残って仕事をしていることになります。悲しいことに、だいたいの園ではそれらが無報酬。いわゆるサービス残業で行われています。
現在、日本では多くの保育園で、早朝のお預かりと夜までの延長保育を取り入れています。朝はだいたい7時くらいに開園、夜は20時までにお迎えに来てもらうというパターンが多いようです。
保育士も法律の中では8時間労働が定められていますから、早番・普通番・遅番に加え、パートの先生が早朝保育担当、延長保育担当など時間ごとに保育士がチェンジする形で勤務体制が組まれています。
しかし、これは書類上のこと。
大半の保育士は、定められた時間通りの勤務ができていない状況です。朝7時に出勤した保育士は、本当ならば夕方の4時には帰ることができるはずなのですが、仕事が終わっておらず20時過ぎまで働いてしまった……ということがよくあります。
◆休憩時間はゼロ
また、休憩時間がないという保育園も多いのです。もちろん、就業規定上は30分ないし1時間以内の休憩が設けられているはずなのですが。実際、保育士の休憩時間は子どもたちの連絡帳を書く時間や、行事の打ち合わせをする時間として使われているので、休む暇はありません。休んでいたら連絡帳は書き終わらなし、行事の準備や練習をする時間がないからです。
実質、休憩なしの12時間労働をしてしまったという話も珍しくありません。
◆持ち帰り仕事も「残業」のうち
保育士の残業は職場だけで行われているのではありません。「持ち帰り仕事」をしている保育士が大半なのです。その内容は、日案や週案、行事の計画書などの書類作成、ピアノや踊りの練習、壁面づくり、工作の準備、劇遊びの衣装作りetc...
日中、子どもたちを保育している時間ではできないことを、家に持って帰って行っているのです。
過剰な残業によって起こる実害
◆残業代は支払われない
給与の面で割に合わないというのはもちろんのこと。もしも残業代が正当に払われたら、定時以降の労働が「サービス」ではなくなったら……おそらく保育士の手取りは30万円を超えるでしょう。一般企業で残業をしている方のお給料と比較した時に、圧倒的に保育士の手取りは少ないのです。
◆肩こり、腰痛…健康被害
また、毎日の残業が当たり前になってくると、最初は平気でも次第に心と体の健康に害が出てきます。一番多いのは、肩こりや腰痛。子どもたちを一日中相手にする保育士は、全力で体を使う職業です。体を使ったらその分は休まないといけないのですが……上述したように、休憩時間もなければ休みの日も持ち帰り仕事に追われているため、体を休めている余裕がありません。月に1度、マッサージに通わないと肩が上がらなくなってしまったという人もいます。
また、心が休まる暇がないというのも大きな問題です。子どもの命を預かる仕事のため、緊張感がつきまといます。残業が続けばプライベートの時間も少なくなり、息抜きもできません。心にたまった疲れは、まず体を蝕みます。頭痛や生理痛がひどくなったり、眩暈を引き起こす場合もあります。また、症状が重くなると心身症に発展するおそれさえあるのです。
◆保育中の事故に発展するおそれ
残業続きの保育士は、眠気や疲れに苛まれています。担任のコンディションが悪い状態で保育室に入ることは非常に危険。子どもたちの些細な変化を見逃してしまったり、危険な時にサッと体が動かない可能性もあります。外に散歩に出かける時に、周囲の危険を察知できなかったら取り返しのつかないことになります。
また、判断力が低下するので、仕事が要領良く進められず、結果、残業をすることになるという悪循環も生まれます。早い時間に家に帰り、きちんと休んでから出勤するというサイクルは、子どものためにも、保育士自身のためにも大切なことと言えるでしょう。
保育士の残業問題はなぜなくならない?
これだけ多くの保育士が残業をし、実害があるのならば今すぐにでも問題は改善されるべきです。しかし、なぜなくならないのか?
残業がなくならない理由として、以下のようなことが考えられます。
◆保育士の仕事は8時間以内で終わらない
一人あたりの保育士が抱えている仕事量を考えると、8時間以内には終わるものではありません。また、量だけでなく仕事の内容も原因しています。たとえば、行事で使う衣装作り。子どもたちの保育をしながら、ミシンを出して作業ができるでしょうか?複数担任のクラスでは、一人が作業、もう一人が子どもを見る、というチームワークを取りながら雑務や書類作成を進行することがあります。しかし、そんな時に体調不良の子がいたら?喧嘩で怪我をしてしまったら?ミシンを触っている場合ではありませんよね。
だから保育士は、子どもたちが帰った後、17時以降に書類作成や行事の準備を始めるのです。言わば、17時からが自分の仕事の開始時間です。
◆深刻な人手不足
現在、ニュースでも騒がれていますが保育園では深刻な人手不足が問題になっています。過酷な労働条件の中、年度の途中で辞めてしまう職員も多いのです。
人手が足りないということは、一人あたりの保育士の仕事量が増えるということです。そのため、止むを得ず残業をしている人も大勢いるでしょう。
◆先輩や上司の手前、早く帰れない
保育士が残業をしてしまう背景には、心理的な問題も絡んでいます。女の職場であるため、人間関係は慎重に築いていきたいところ。そう考えると、上司や先輩よりも早く帰ることは自分の立場上できないと考えてしまいます。
病院に行かなくてはいけないため定時で帰ろうとすると、引き止められはしないものの、怖い目で睨まれてしまいます。それが何回も続けば「あなた、また定時で帰るの?他の職員は働いているのに、ちょっとは保育士の自覚を持ってほしいな」なんて言われてしまうのです。
また、先輩がたくさん仕事を抱えていたら、自分の仕事を放り出してでも手伝いをしなくてはいけない、という暗黙の了解が存在する園もあるでしょう。本来ならば、上司や先輩がしっかりして、後輩が定時で帰れるように調整してあげるのが良い園です。
◆残業=子どもへの愛だと勘違いしてしまう
担任として子どもたちに関わっていると、我が子のように可愛く思えてきます。当たり前のことですが、それが保育士の残業の原因にもなっています。子どもたちのためなら、持ち帰り仕事をしたって構わないわ!というスタンスの保育士もいますが、それが園内で当たり前になってしまうと「あの先生は子どものために残業している……。私も子どもたちのために残業しなければ、良い先生ではないわ」という心理に陥ってしまいます。
残業=子どもたちの愛ではありません。先生が翌日に元気に出勤し、一人ひとりの子に愛情をたっぷりとかけてあげるためには、過剰な労働は避けたほうが良いでしょう。
どうしたら保育士の残業問題は解決するか
紹介したような原因から、保育士は残業問題に縛られ続けています。自分の中で残業が当たり前になってしまうと、その当たり前を後輩にも強いるようになってしまうので、ここで残業の連鎖が発生するのです。
この連鎖を断ち切るために、現場で働く保育士たちが以下のことを心掛けていく必要があるかもしれません。
◆同僚の目は気にしない。私は私!
大切なことは、自分がすべきことを労働時間内にきちんとすることです。上司や先輩の目を気にしすぎて残業ばかりしていると、体調を崩して、結果、迷惑をかけることになりかねません。
自分はしっかりと仕事をしている!という自信を持つと同時に、そのことを先輩や上司に誠実にアピールしていきましょう。あなたへの信頼感が増すことで、多少の早帰りは許される場合もあります。
◆8時間以内にうまく終わらせる仕事内容を考える
行事の衣装は可愛くしたいからレースを二枚重ねにして、壁面は凝りたいから新たに作って……と「やりたいこと」を考える前に、それは8時間の業務時間内で終わるかどうかを考えてみましょう。保育士の仕事をうまく続けていくには、ほどよく楽をするコツを覚える必要があります。たとえば、昨年の同じ季節に作った壁面に少しだけ手を加えて使えるようにするとか、衣装作りではミシンを使わなくても良い素材を使うなど。
ちょっとした工夫により、残業時間を減らすことができるのです。
◆残業するのは週に○回、○時間と制限を設ける
残業をゼロにすることは難しくても、今よりも減らすことは可能です。毎日の残業が癖になってしまうと「何時間でも居残っていいや」と思ってしまいがち。しかし、意識して「週に何日、何時間」と制限を決めたり、何時までに終わらせると決めて仕事をするのも良いでしょう。○曜日は必ず定時であがる、と自分に言い聞かせておくことも効果的です。
残業問題に限界を感じたら、無理はしない
が基本になります。
参考:残業無し、と約束してくれる保育園を探してみた
(著者:東京都在住 20代後半 女性 元保育士)
以上、残業問題の実情や原因、解決策についてお話しましたが、様々な事情があり今すぐには改善が難しい場合もあると思います。
深刻な健康被害が出る前に、転職をするという選択肢も視野に入れましょう。過剰な残業を続けて、二度と保育現場に立てなくなってしまったら勿体ないです。自分の身は自分で守ることが大切です。
無理なく働ける保育園を探し始めることも、解決策の1つですね。